本章の内容
ローリスク・ハイリターンの金融商品はない
投資にどのような利益を期待するかは、人それぞれだと思います。
一攫千金を求めてハイリスクの商品に手を出す人、元金が目減りすることを避け国債を買う人、株主優待を求めて個別株を買う人など、個人の嗜好が多様であることに対応して、様々な金融商品が存在します。
私も、これまでに様々な投資を行ってきました。個別株、ファンド、債券、為替、CFD、REIT、ソーシャルレンディング、暗号通貨等々。10倍を超えるリターンを得たこともあれば、毎月数千円の利益を重ねたこともあります。反対に、投資金の大半が焦げ付いたことも、少しづつ損失が重なり最後には大きな損失を出していたこともあります。
これらの投資経験から学んだことは、「ハイリスク・ローリターンの金融商品はあっても、ローリスク・ハイリターンの金融商品はない」ということです。そんなの当たり前と言われればその通りなのですが、ローリスク・ハイリターンを求めてしまうのも、これまた多くの人の心情として当たり前だと思っています。
ローリスク・ハイリターン運用を目指すヘッジファンド
ローリスク・ハイリターンの金融商品がないのであれば、運用でそれを実現しようとする人達がいます。所謂、ヘッジファンドです。
私は金融の世界にいる人間ではないので、ヘッジファンドの実態をよく知っているわけではありません。ただ、その名が示す通り、「複数の金融商品に対してヘッジ取引(反対売買)を行うことで、ローリスク・ハイリターンの運用を目指している」ことだけは間違いないかと思います。
残念ながら、近年のヘッジファンドに関するニュースを見る限り、本来はローリスクの運用を目指しているはずなのに、破綻するヘッジファンドが少なくないようです。あくまで勝手な推察ですが、顧客獲得競争の激化で、ローリスクを犠牲にしてハイリターンを追求せざるを得なくなっているように思います。
ともあれ、かつてはヘッジファンドの代名詞とも言えたシステムトレードを、個人でも容易にできるようになった今、ヘッジファンドが目指すローリスク・ハイリターンの運用をセルフ(自分)で目指してみるのは、悪くない選択肢だと思っています。
もちろん、事業として運営するヘッジファンドとは、資金量やトレード環境などに雲泥の差がある為、ヘッジファンドの戦略をそのまま真似ても意味がありません。反対に、事業として行わない個人は、無理をしてハイリターンを追求する必要がありません。あくまで、システムトレードを合理的に行うことを前提に、ローリスク・ハイリターンを目指すということです。
個人が目指すべきハイリターンは複利
セルフで目指すローリスク・ハイリターンの運用に、絶対に欠かせないものがあります。それは「複利」です。ご存じの方も多いと思いますが、現代物理学の礎となる理論を生み出したアインシュタインが、今世紀最大の発見として評したのが複利です。
高い効果が期待できる複利ですが、やることは簡単です。トレードで発生した利益を、次のトレードにつぎ込むだけです。もちろん、勝ったり負けたりする毎回のトレードでこれをやるとダメですが、例えば1年間で20%の利益が出たのであれば、次の年にはトレードの数量(ロット)を1.2倍に増やすということです。なお、複利の反対である単利は、どれだけ利益が出てもトレードの数量(ロット)を一定に保つということです。
単利と複利が、10年後にどれだけの差を生むかをご存じでしょうか?
下図に、年利20%で10年間運用した時の単利と複利の資金推移を示しています。一般的に、年利20%というのはかなり優秀な成績なので、単利で運用したとしても、5年で2倍、10年で3倍に資金が増えます(図の青線)。でも、複利で運用すれば、10年後に6倍を超えるのです(図の赤線)。年に1回、その年に得られた利益に応じてトレードの数量を変えるだけで、10年後に資金が倍以上に増えるということです。単利に換算すれば、年利50%にもなるのです。
事業としてヘッジファンドを営んでいれば、単年度あたりのリターンにインパクトが求められますが、セルフの運用ならその必要はありません。長期の複利運用を前提とするだけで、ハイリターンを実現できるのです。
複利に求められる年利の水準
ただ、実際に複利の効果を得るには、それに見合ったトレードが必要になります。
下図に、年利20%の複利(赤線)と年利2%の複利(青線)について、10年間の資金推移を示しています。両者とも複利なのに、資金推移の印象はまったく異なります。年利2%の複利は、単利との違いが分からないレベルです。
このように、複利の効果を体感として得るには、2%程度の年利では不十分なのです。反対に、先程お話しした通り、年利が20%もあれば、十分すぎる複利の効果が得られます。つまり、複利がどれだけ優れた運用法だとしても、年利の低い国債や配当金で行うことは、必ずしも合理的と言えないのです。
ざっくりとした所感に過ぎませんが、「体感できるレベルで複利の恩恵を受けるには、安全に10%以上の年利を確保し、無理のない範囲で年利20%オーバーを目指す」といったところが、理想的なローリスク・ハイリターンの水準だと思います。
実際にシステムトレードを合理的に行えば、この水準がまったく難しいものでないことに、お気付き頂けると思います。
複利に安定性が重要な理由
複利の効果を得るのに、利率以外にもうひとつ重要な条件があります。それは、収益の安定性です。
具体例を使って安定性について検討したいと思います。
下図の赤線は、上で述べた年利20%の複利運用における資金推移になります。先程は説明を省略しましたが、これは年利20%を安定的に得られることを前提としています。一方、下図の青線は、1年ごとに年利50%と年利-10%を交互に繰り返した場合の複利運用における資金推移を示しています。この場合も、平均年利は20%なので、年利という点では赤線とまったく同じです。
両者を較べると、後者に多少の波が見られるものの、概ね似たような推移であることが分かります。ですので、この図を見る限りでは、複利の効果を得るのに収益の安定性は必ずしも必要ないように思います。
しかしながら、次の図をご覧になられたらどうでしょうか。この図の青線は、先の青線と同じく、1年ごとに年利50%と年利-10%を交互に繰り返した場合の複利運用を示しています。何が違うかと言うと、先程は最初の年に年利50%が得られたと仮定したのに対し、今回は年利-10%が先行するように仮定しただけです。
資金推移を比較すると、常に青線が赤線を下回っていることが分かります。また、年利の低い年の資金は、安定運用に比べ大きく目減りしており、万が一、その年に運用を止める必要が生じれば、得られる資金の差はかなりの額に達します。さらに、青線と赤線の推移は年を経るごとに拡大しており、10年を超えて複利運用を継続する場合、得られる資金の差はさらに広がることになります。
今回は、年利の高い年と低い年が交互になると仮定して試算しましたが、実際には高い年や低い年が連続することもあります。その場合、この図でお示しした青線よりも、更に悪い資金推移になることもあるのです。
向こう10年間に期待できる平均年利は試算できますが、各年の利率がどうなるかは、残念ながら誰にも予想できません。たとえ運用の初年度に高い利率が得られとしても、その先9年間の年利がどうなるかは、分からないのです。
運用戦略は安定性を優先すべき
先ほど述べた年利の低い年が先行する複利運用は、安定的な年利15%の複利運用とほぼ同等になります(下図)。つまり、平均年利が20%でも、安定性が低いと年利15%の複利運用の効果しか得られない、ということを意味します。
安定性は利率に比べ軽視されがちですが、利率と同様に収益に直結するものであることを、十分にご理解頂けたと思います。
以上の検討から言えることは、まず安定性を確保し、その上で期待される利率を高めるのが、合理的な運用戦略のアプローチだということです。