運用の安定性を制御するヘッジトレード

第5章 運用の安定性を制御するヘッジトレード

本章の内容

利率や安定性をトレードルールで制御するのは難しい

前章において、ローリスク・ハイリターン運用の鍵は複利であること、そして、複利の効果を享受するには利率と安定性が重要であることをお話ししました。

もし「システムトレードの利率と安定性は、運用ではなくトレードルールで考えることではないの?」と思われたのなら、それは早計です。

第2章でお話ししましたが、合理的なトレードとは、ランダムではない値動きを利益に変えるものです。そして、トレードルールの役割は、ランダムではない値動きを検知して、トレードの指令を出すことにあります。つまり、トレードルールは、値動きに対してあくまで受け身であるべきなのです。

値動きに対して受け身ということは、通算すれば相当の利益を生み出せるトレードルールであっても、利益と損失の大きさやタイミングは、あくまで値動きに依存するということです。

それにも関わらず、「タイミングは無理としても、収益の大きさは人為的なルールにより制御してやろう」と考えるなら、よほど高度な戦略を持ち合わせていない限り、まず上手くいきません。

実際にトレードデータを分析してみれば分かりますが、例えば10 pips(為替トレードにおける値動きの単位)の損失が出れば無条件に決済するといった人為的なルールを導入すると、ほとんどにおいてトレードの優位性(勝ちトレードの利益と負けトレードの損失の比率)が低下します。

中には、利益確定の変動幅と損失限定の変動幅を予めルールに設定し、過去のデータを用いた時の利益が最大になるように、各変動幅の最適値を算出する人がいます。ご存じの方もいると思いますが、数値解析や最適解探索の発想です。

残念ながら、この試みは過去データに対する過剰適合を生み出します。相場が適合する時だけ稼働させる術を予め用意できるのであれば良いですが、そうでなければ、どこかのタイミングで必ず痛い思いをすることになります。つまり、意図した安定化とは、真逆の結果です。

以上のことから、値動きから生じる利率と安定性を素直に受け入れるのが、合理的なトレードルールと言えるのです。

損益の振れ幅を制御するヘッジトレード

運用戦略で考えるべき利率と安定性のうち、より優先すべき安定性から検討を進めます。

収益を安定化させるとは、利益と損失の振れ幅を小さくすることを意味します。この損益の幅を制御する方法として有名なのが、所謂「ヘッジトレード」です。ヘッジファンドという呼称に含まれるトレードです。

ある投資対象の価値が上昇すると考えた時に、その対象を買うと同時に、その対象と似た値動きをする別の対象を売る、というものです。後者のトレードをヘッジトレードと呼ぶことも多いですが、このブログでは、「反対売買を組み合わせたトレード」という意味でヘッジトレードという言葉を使います。

ヘッジトレードは、多くの場合、一方に利益が出れば、他方に損失が出ます。そして、その利益と損失の差が、実際の損益となります。つまり、値動きの大きさやタイミングによらず、利益も損失も振れ幅が小さくなることを意味します

この効果が最も高いのは、同じ対象に対してヘッジトレードを行うことです。同じ対象なら当然値動きも同じなので、売買を組み合わせれば、利益も損失もゼロになります(手数料は除きます)。反対に、効果が最も低いのは、値動きがまったく連動しない対象に対してヘッジトレードを行うことです。その場合、お互いの利益を打ち消し合うことはありませんが、安定化の効果も期待できないことになります。

つまり、ヘッジトレードとは、利益と損失をセットにして振れ幅を変えられるトレードだと言えます。「損失が小さくなっても利益まで小さくなるなら意味がない」と思われるかもしれませんが、損益の振れ幅を人為的に制御できるという点がヘッジトレードの価値なのです。

FXにおけるヘッジトレード

通常のヘッジトレードは値動きの近い対象に対して買いと売りを組み合わせる、と言いましたが、通貨ペアを売買する為替取引(FX)の場合、困ったことが生じます。なぜなら、ドル円、ユーロドルといったように、取引の対象がすでに買いと売りを組み合わせたものだからです。

仮に「ユーロドルの買い」と「ユーロ円の売り」を組み合わせたとします。前者は「ユーロ買い」と「ドル売り」の組み合わせ、後者は「ユーロ売り」と「円買い」の組み合わせを意味します。このうち「ユーロ買い」と「ユーロ売り」は同じユーロを売買しているので、実質的に何も保有していないのと同じです。結果として残るのは「ドル売り」と「円買い」ですが、これは「ドル円の売り」と同じなのです。つまり、ヘッジトレードをしていたつもりが普通のトレードをしていた、という笑い話になってしまうのです。

では、為替取引でヘッジトレードはできないのでしょうか?

そんなことはありません。売買の組み合わせではなく、相反する値動きの狙い方を組み合わせればよいのです。具体的には、「順張り」と「逆張り」を組み合わせます。

順張りと逆張りのヘッジトレード

トレードにあまり馴染みのない方の為に、「順張り」と「逆張り」についてお話ししておきます。

順張りとは、値動きの方向と同じ向きにトレードする手法です。何だか難しく聞こえるかもしれませんが、ここ最近の為替レートが上がっていれば買いトレードを行い、反対に下がっていれば売りトレードを行う、という単純なものです。

逆張りは、順張りの逆で、値動きの方向と反対向きにトレードする手法です。すなわち、ここ最近の為替レートが上がっていれば売りトレードを行い、下がっていれば買いトレードを行う、というものです。

買いと売りの関係と同じく、順張りと逆張りも対称的な組み合わせであることをご理解頂けたでしょうか。

実際、順張りと逆張りが完全に対称となるトレードルールであれば、売買のヘッジトレードと一致します。

例えば、為替チャートを表示する際にローソク足と共に表示される移動平均線(SMA)を基準としたルールを考えます。順張りのルールは「終値がSMAを上回れば買い、下回れば売り」、逆張りルールは「終値がSMAを上回れば売り、下回れば買い」とします。つまり、終値とSMAの位置関係で値動きの方向を確認し、その向きに応じて売買のいずれかのトレードを行うというルールです。

このルールに従うと、SMAの上方で値が動いている間は、「順張りなら買い、逆張りなら売り」のポジションを、それぞれ保有することになります。反対に、SMAの下方で値が動いている間は、「順張りなら売り、逆張りなら買い」のポジションを保有することになります。

実際に用いるトレードルールは、この例のように完全な対称ではない為、常に反対のポジションを持つわけではないですが、順張りと逆張りの組み合わせに多少なりともヘッジ効果が期待できることを、ご理解頂けたと思います。

時間足に対する順逆のヘッジトレード

では、順張りと逆張りのヘッジトレードは、何を対象に行えばよいのでしょうか?

売買のヘッジトレードと同じく、異なる投資対象(通貨ペア)に順逆のヘッジトレードを行うことは可能です。ただし、先に笑い話としてお伝えした通り、異なる通貨ペアでも共通する通貨が含まれていれば、それはヘッジになりません。

一方、通貨が共通しないように選ぶと、例えばドル円および豪ドルNZドルの組み合わせなど、値動きの連動性がかなり低くなり、ヘッジの効果が不十分になることが予想されます。

つまり、異なる通貨ペアのヘッジトレードは、選択肢が限られてしまうのです。上でもお伝えした通り、対象選択により損益を人為的に制御できるのがヘッジトレードの利点であることを思い出して頂ければ、ヘッジトレードの対象を通貨ペアとするのは、あまり得策でないことをご理解頂けると思います。

それでは何を対象にするかと言えば、同じ通貨ペアの異なる時間足を対象とします。例えば、ドル円の1時間足と5分足や、ユーロドルの日足と4時間足、といった具合です。

同じ値動きを異なる期間で見ているだけなので、当然ながら時間足の値動きは連動します。また、期間が近い組み合わせほど値動きの連動性は高く、遠い組み合わせほど連動性は低くなります。つまり、時間足の遠近によりヘッジの強弱を制御できるのです。

私が実際に使っている時間足の組み合わせは、5種類の時間足(日足、4時間足、1時間足、15分足、5分足)における2段差、すなわち日足と1時間足、4時間足と15分足、1時間足と5分足になります。もちろん、これがベストというわけでなく、あくまで自身にとって程よいヘッジのレベルだということです。

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