運用の安定性に有効な分散トレード

第6章 運用の安定性に有効な分散トレード

本章の内容

分散は安定性を高めるもう一つの方法

前章でお話ししたヘッジトレードは、収益の安定性を高めるメインの方策なのは確かですが、それ以外にも安定性を高める手段があります。それは「分散」です。

ほとんどの方は、分散投資という言葉をお聞きになったことがあると思います。「卵をひとつの篭に盛るな」という格言と共に、投資信託の勧誘を受けた方もおられるかもしれません。ヘッジファンドの「ファンド」という言葉は、投資信託と同義で使われており、複数の投資対象を纏めて運用することを意味します。呼称の由来は知りませんが、ヘッジトレードと分散を組み合わせることは、安定運用に不可欠なのです。

分散させるのはプログラムではなく値動き

システムトレードにおける分散で、真っ先に思いつくのは、複数のトレードプログラムを走らせることだと思います。作業的にも、複数のプログラムを実行させるだけなので簡単です。

しかし、これは必ずしも正しくないのです。その理由は、合理的なトレードルールは値動きに対して受け身であることを思い出してもらえれば、ご理解頂けると思います。すなわち、複数のプログラムが同じ値動きを狙ったものであれば、分散による安定化は期待できないのです。

例えば、多少の損失を許容して積極的に利益を取りにいくルールと、できるだけ損失を出さないよう消極的に利益を取りにいくルールを組み合わせたとします。両者とも同じ値動きを狙ったもの(順張り同士あるいは逆張り同士)であれば、後者の利益が出る時は前者でも利益が出ます。同様に、後者の損失が出る時は前者でも損失が出ます。つまり、安定化どころか、むしろ損益の振れ幅を増幅させるのです。

従って、分散運用により安定化を図るには、トレードプログラムの分散ではなく、トレードが狙う値動きを分散させる必要があるのです。

値動きの分散は通貨ペアと時間足で行う

では、トレードが狙う値動きを分散させるとは、どういうことでしょうか?

FX会社の情報ページなどで、複数のチャートが並んで表示されているのを、ご覧になられたことがあると思います。同じ時間足でも通貨ペアによりチャートの形状は異なりますし、通貨ペアが同じでも時間足によって、やはりチャートの形状は異なります。

狙う値動きを分散させるとは、まさにこの状態のことを指します。すなわち、値動きの異なる通貨ペアや値動きの異なる時間足を組み合わせる、ということです。

通貨ペアも時間足も色々あるので、それらを組み合わせるだけなら分散は簡単、と思われたかもしれませんが、残念ながらそうでもないのです。なぜなら、通貨ペアにせよ、時間足にせよ、どちらも値動きの連動性が高いからです。

通貨ペアについては、例えば、ドルに対して円高が進むと、ユーロ、ポンド、豪ドルなど、他の外貨に対しても円高が進みます。また、ボンドの値下がりが続くと、同じ欧州の通貨であるユーロもまた値を下げます。このように、通貨ペアは、地政学的な繋がりに応じて値動きが連動するのです。

時間足については、前章でもお話しした通り、むしろ連動するのが当たり前と言えます。例えば、1時間足は12本の5分足で構成されており、その1時間足が24本纏まったものが日足です。つまり、どの時間足も、期間というスケールの違いだけで、基本的には同じ値動きを見ているに過ぎないのです。従って、その連動性は通貨ペアよりも高いと言えます。

分散運用は、値動きが異なるものを組み合わせることに意味がある為、通貨ペアと時間足に内在する値動きの連動性を考慮して分散を図る必要があるのです。

分散は値動きの連動性を考慮する必要がある

ここで言う「連動性を考慮した分散」とは、どういうことかを図を用いて説明したいと思います。

ここでは、下図のように、横方向に時間足、縦方向に通貨ペアを配したマトリックスを考えます。このうち、時間足は左から順番に日足、4時間足、1時間足、15分足、5分足を並べています。この並びは、期間の長さ順であり、近くに位置するほど連動性が高くなっています。一方、通貨ペアは、地政学的な位置に応じて並んでいると仮定し、やはり近くに位置するほど連動性が高いとお考え下さい。なお、後者の地政学的な位置や、具体的な通貨ペアの並びについては、次章でお話しします。

図には、例として5つの運用対象の選び方を示しています。左はマトリックスの特定領域から集中して選び、右はマトリックスの幅広い領域から満遍なく選んでいます。

お分かりかと思いますが、分散効果が期待できるのは右の選び方になります。左は値動きの連動性がいずれも高く、損益の大きさやタイミングが揃う為、損益の振れ幅が大きくなります。それに対し、右は通貨ペアと時間足の双方において値動きの連動性が低く、損益の大きさやタイミングが異なる為、安定性が高まると考えられます。

この説明では、予め連動性を踏まえたマトリックスをお示しした上で、どちらの選び方が望ましいかを考えましたが、もし横方向と縦方向の並びが、適当に並んでいたらどうなるでしょうか?

その場合、上右図のように分散させて選んだとしても、横方向と縦方向を連動性に基づいて後から並べ直すと、選んだマス目が実は特定の場所に集中していた、ということが起こり得るのです。

つまり、「連動性を考慮した分散」とは、時間足と通貨ペアを予め連動性に基づき並べておき、その状態から相互に離れるように時間足と通貨ペアの組み合わせを選択する、ということなのです。

分散とヘッジトレードを組み合わせる

ここまでの説明で、どのように通貨ペアと時間足を選択すれば、分散の効果が得られるかをご理解頂けたと思います。

そこで、この分散に、前章でお話ししたヘッジトレードを組み合わせたいと思います。

ヘッジトレードは、同じ通貨ペアの異なる時間足に対して行うとお伝えしました。ここでは、私が採用している2段差の時間足、すなわち日足と1時間足、4時間足と15分足、1時間足と5分足、について検討します。

先程、5つのトレード対象を分散効果が期待できるように選択した図をお示ししましたが、その図を改めて下図の左に示しています。この図を参考にして、2段差のヘッジトレードをマトリックス上に配置した図を、その右側に示しています。なお、右図の赤色は順張り、青色は逆張りを表しています。

いずれの通貨ペアにおいても、順張りと逆張りが2段差に配置されており、ヘッジトレードによる安定化が期待できます。また、順張りと逆張りはいずれも、相互に離れて位置しており、分散による安定化も期待できます。つまり、この配置は「ヘッジトレードと分散の組み合わせにより、安定化が期待できる運用例」と言えます。

もちろん、この選択方法は一例に過ぎず、他にも色々な選択方法が考えられます。大事なのは、「連動性を踏まえて並べた通貨ペアと時間足のマトリックス上に、順張りと逆張りの適切なヘッジ関係を保持して、できるだけ全体に散らばるようにトレード対象を選択すること」が、安定性を高めるのに有効ということです。

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